英文契約書の翻訳を行う際のポイントとは?課題やデメリットを解説

LAWGUE編集部
英文契約書の翻訳を行う際のポイントとは?課題やデメリットを解説
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近年、グローバルビジネスの拡大に伴い、英文契約書の翻訳ニーズは高まっています。
そんな中、AI翻訳の普及により利便性が向上するとともに、精度・専門性・セキュリティ面での課題も明らかになってきました。

この記事では、AI翻訳の現状と課題を解説するとともに、英文契約書の種類や、翻訳の質を担保するための具体的なポイントについて、分かりやすく解説していきます。

契約書翻訳におけるAIの活用と課題

AIを活用した英文契約書の翻訳には利便性がある一方で、精度やセキュリティ面においていくつかの課題が存在します。以下では、AIを活用した契約書翻訳の現状と課題、そしてそれらを解決するための具体的な方法について解説します。

近年のAI翻訳技術の進展

AI翻訳技術は近年、目覚ましい進歩を遂げています。

初期の「ルールベース型(直訳タイプ)」の翻訳では、文法や単語辞書に基づいた機械的な翻訳しかできませんでした。しかし、「統計ベース型(意訳タイプ)」の登場によって、学習データから文章のパターンを統計的に分析し、より自然な意訳が可能になりました。

そして、近年主流となっているのが、ディープラーニング技術を応用した「ニューラルネットワーク型」です。人間の脳神経回路をモデルとし、膨大なデータを学習することで、より高精度で人間が翻訳したような自然な文章を生成できるようになりました。

契約書の翻訳における課題・デメリット

契約書の翻訳においては、以下のような課題が残されています。

まず、AI翻訳は、特に複雑な構文や専門用語を含む契約書において、文脈を正確に理解できません。単語の多義性を捉えきれずに誤訳が発生したり、長文や複雑な文章の一部が訳抜けしてしまうリスクがあります。

次に、AI翻訳は直訳調になりがちで、文化的背景や法律的なニュアンスを十分に汲み取ることができません。慣用句や法的特有の表現を不自然な日本語に変換してしまうことがあり、原文の意図を正確に伝えられないケースがあります。

そして、セキュリティに関するリスクです。多くのAI翻訳サービスは、入力されたデータをAI学習に利用しています。そのため、機密情報や個人情報が含まれる契約書を安易にこれらのサービスで翻訳してしまうと、情報漏洩のリスクを負うことになります。

契約書の翻訳における課題を解消する方法

AIによる契約書翻訳の課題を解消し、翻訳の品質を確保するためには、以下のような対策が考えられます。

AI翻訳サービスはそれぞれ得意分野が異なるため、法律文書の翻訳に特化したエンジンを利用したり、複数のエンジンで翻訳結果を比較したりすることで、誤訳のリスクを低減できます。

また、あくまでAI翻訳は下訳として活用し、最終的なレビューは法律や言語に精通した専門家が行う体制を整えましょう。プロの翻訳者が原文の意図・文化的背景・法的ニュアンスを正しく理解した上で修正・加筆を行うことで、高品質で信頼性の高い翻訳を担保できます。

そして、高いセキュリティを備えた翻訳ツールを利用してください。データ暗号化やアクセス制御など、厳格なセキュリティ対策が講じられている法人向けの翻訳サービスの利用をおすすめします。

英文契約書の種類

英文契約書の種類として、以下のようなものがあります。

  • Sales Agreement
    物品やサービスの売買に関する条件を定める売買契約書

  • Distributorship Agreement
    特定の製品の販売を第三者に委託する際の代理店契約書

  • License Agreement
    特許や著作権などの知的財産の使用許諾に関するライセンス契約書

  • Employment Agreement
    雇用関係を規定する雇用契約書

  • Confidentiality Agreement
    機密情報の漏洩を防ぐ秘密保持契約書

  • Joint Venture Agreement
    複数の企業が共同で事業を行う際の合弁契約書

  • Service Agreement
    業務の一部を外部に委託する際の業務委託契約書

また、英文契約書の形式には、3種類あります。厳格で伝統的な「クラシック形式」、簡潔で読みやすい「モダン形式」、取引意向書(LOI)や覚書(MOU)など契約交渉の初期段階で用いられる手紙のような構成の「レター形式」です。

英文契約書を翻訳する際の質を担保するためのポイント

翻訳の質は契約内容の正確性を左右し、ビジネスリスクにも直結するため、細心の注意を払う必要があります。ここでは、英文契約書の翻訳において、質を確保するために押さえておくべき重要な5つのポイントを解説します。

ポイント1:英文契約の特徴を理解しておく

英文契約書は、英米法の文化を反映し、契約内容を網羅的に記述してあいまいさを排除する傾向にあります。また、性悪説に基づき、将来起こりうるリスクや紛争解決策まで詳細に規定するのが一般的です。
そのため、英文契約書では契約書に記載されていない事柄は法的効力を持たないという傾向が強くなります。

これに対して、和文契約書は相互信頼を前提とし、「別途協議」や「円満協議」といった条項が設けられることが多く、柔軟な対応の余地が残されています。

英文契約書を適切に翻訳するためには、単語や文法を正しく置き換えるだけでなく、文化的・法的背景の違いを理解し、国際標準に適合させる視点が必要不可欠なのです。

ポイント2:契約書翻訳という業務の特殊性を理解する

契約書の翻訳は、当事者間の権利と義務を明確にする法的拘束力を持ちます。したがって、原文の意図を正確に、かつ厳密に反映することが重要です。

誤訳や訳抜けは、重大な法的リスクや経済的損失を引き起こす可能性があります。

特に、日本語の契約書を英訳する際は、日本の法体系や商習慣に基づいた表現を、英米法の考え方に即した国際標準の表現に置き換える必要があります。この過程で、正確性を保ちつつも、相手方が理解しやすいように翻訳するスキルが不可欠です。

直訳してしまうと、相手方に真意が伝わらず、交渉の長期化を招くことにもなりかねません。法律や商取引に関する専門的な知見に基づいた翻訳が求められます。

ポイント3:英米法や国際商取引に関する知識が必要

契約書の正確な翻訳には、単なる語学力のみならず、英米法や国際商取引に関する深い知識が不可欠です。契約書特有の専門用語や法的な概念への理解に加え、ウィーン条約やインコタームズなど、最新の国際条約や協定への理解も必要でしょう。

ウィーン条約は、条約の成立・解釈・適用などに関する国際法上の規則を定めた条約です。インコタームズとは、国際商業会議所(ICC)が制定した、貿易取引における売主と買主の費用とリスクの負担範囲を定める国際規則のことです。

これらの国際規約に関して十分な専門知識がなければ、契約書に潜むリスクを読み解くことができず、翻訳に反映させることはできません。そのため、翻訳サービスや翻訳会社を選定する際には、法律分野や特定の業界における実績や専門性を確認することがきわめて重要となります。

ポイント4:契約書の条項ごとの役割を把握する

英文契約書は、多くの条項から構成されており、それぞれが特定の役割を担っています。

例えば、「Recitals(前文)」は、契約の背景や目的を説明し、「Definitions(定義)」は契約内で使用される用語の正確な意味を定めます。
また、「Representations and Warranties(表明保証)」は、当事者が契約締結時点で特定の事実が真実であることを保証するもので、後の紛争発生時の根拠となります。
そして、「Indemnification(補償)」条項は、相手方の行為によって生じた損害を補償する義務を規定します。

これらの条項がどのような法的意味を持ち、相互にどう関連しているかを理解せずに翻訳すると、原文の意図を見誤る可能性があります。単語単位での翻訳ではなく、各条項の役割を深く理解し、それを翻訳に生かすことが、契約書翻訳には不可欠です。

ポイント5:最新の法規制や商慣習をインプットする習慣を身に着ける

国際的なビジネス環境は常に変化しており、それに伴い法規制や商慣習も頻繁に更新されます。

例えば、データ保護に関する規制(GDPRなど)や、知的財産権の保護に関する国際条約など、新たなルールが次々と導入されています。これらの最新動向を把握せずに翻訳を行うと、時代遅れの内容になったり、法的に不適切な表現を用いてしまったりするリスクがあります。

特に、契約書は将来の取引を規定するものであるため、最新の法規制を反映していることがきわめて重要です。

翻訳者は、特定の分野に特化した専門知識だけでなく、幅広い分野の最新情報にアンテナを張り、常に学び続ける姿勢が求められます。

英文契約書を翻訳する際の質を担保するためのポイント

英文契約書の翻訳において品質を確保するためには、翻訳の正確性や専門性だけでなく、実務的な側面にも目を向ける必要があります。
契約書は、企業にとってきわめて重要な機密情報を含むものです。取り扱う際には、セキュリティ対策・コスト・翻訳会社の信頼性を多角的に評価することが不可欠です。

①セキュリティ対策を確認

英文契約書には、企業の戦略・技術情報・顧客データなど、きわめて重要な機密情報が含まれています。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の競争力低下・信用失墜・法的責任問題など・甚大な損害が発生するおそれがあります。
特に、M&A契約や業務委託契約など、事業の根幹にかかわる文書の翻訳においては、情報漏洩のリスクは計り知れません。

そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が機密情報や個人情報を適切に管理するための体制を整備しているかを厳格に確認することが不可欠です。

セキュリティ対策を確認する際の主なチェック項目は以下のとおりです。

  • 情報セキュリティポリシー
  • 技術的対策
  • 物理的対策
  • 人的対策

・情報セキュリティポリシー
「情報セキュリティポリシー」とは、企業が情報資産を保護するために策定する、秘密保持に関する方針や対策基準を定めたものです。

翻訳会社が自社のウェブサイト上でこのポリシーを公開しているかを確認することは、その企業が情報セキュリティに対してどれだけ真剣に取り組んでいるかを示す重要な指標となります。ポリシーが明確に定められ、それが従業員に周知徹底されているかどうかも確認すべきでしょう。

・技術的対策
「技術的対策」とは、情報システムやネットワークにおけるセキュリティ対策を指します。

顧客から預かった情報が、ファイアウォールで保護されたサーバーの下に置かれているか、担当者以外が情報にアクセスできないようなアクセス制限がかけられているか、エンドポイント対策としてウイルス対策ソフトが導入され、定期的にアップデートされているかなどを確認しておく必要があります。

・物理的対策
「物理的対策」とは、情報資産が保管されている施設への物理的なアクセスを制限するための対策です。

翻訳会社のオフィスにおいて、入退室管理が厳格に行われているか、シュレッダー処理などによる機密文書の廃棄方法が確立されているかなどを確認しましょう。

・人的対策
「人的対策」とは、従業員が情報セキュリティに関する意識を持ち、適切な行動をとるための対策です。

社員に対する定期的なセキュリティ教育が行われているか、社員・契約社員・協力企業との間に秘密保持契約(NDA)が適切に締結されているかなどを確認しましょう。

どんなに強固なシステムがあっても、最終的に情報を扱うのは人間であり、従業員ひとりひとりのセキュリティ意識の高さが情報漏洩防止につながります。

②コストを確認

翻訳にかかるコストには、単に翻訳の依頼にかかる「翻訳料金」のみならず、「翻訳会社からの納品後、社内で必要となる訳文チェックや修正にかかるコスト」、そして「レイアウト調整や書式処理にかかるコスト」も含まれます。

表面上の翻訳料金が相場よりも安価であっても、その後の品質が不十分であれば、社内での修正作業に多大な時間と労力が費やされ、結果的に総コストが高くなりかねません。

逆に、翻訳料金が相場より高くても、チェック体制がしっかりしており、納品後の修正がほとんど不要であれば、総コストとしては安価に抑えられるでしょう。

翻訳を発注する際は、提示された料金だけでなく、提供されるサービスの範囲・品質・削減できる社内工数までの「総コスト」を総合的に判断することが重要です。

③翻訳会社が信頼できるかチェックする

翻訳業界は参入障壁が比較的低く、企業の入れ替わりも激しいため、信頼できる翻訳会社を見極めることは容易ではありません。しかし、企業の重要な契約書を安心して任せるためには、その信頼性を慎重に評価する必要があります。

翻訳会社が信頼できるかどうかを確認する際の主なポイントは以下のとおりです。

  • 企業情報の掲載
  • 経営陣の写真やプロフィール
  • 翻訳者や翻訳コーディネーターのプロフィール

・企業情報の掲載
企業のウェブサイトに、会社名・所在地・連絡先・代表者名などの基本的な企業情報が明確に公開されているかは、信頼性を測る上での基本中の基本です。

これらの情報が不十分な会社や隠されているように感じる会社は信用できません。透明性の高い情報開示は、企業が責任を持って事業を運営している証拠といえます。

・経営陣の写真やプロフィール
経営陣の顔写真や詳細なプロフィールが公開されていることは、企業が情報開示と透明性を重視している明確な指標となります。

何か問題が発生した際に、責任を負うべき人物が明確であるというメッセージにもつながるため、特に、欧米のビジネス慣習では、経営陣の顔を公開することは企業の信頼向上に不可欠であるとみなされています。

・翻訳者や翻訳コーディネーターのプロフィール
翻訳会社に在籍する翻訳者や翻訳コーディネーターのプロフィールが公開されている場合、彼らの専門分野・経験・資格などを確認することができます。

依頼したい契約書の分野に精通した人材が対応してくれるかどうかの判断材料になるでしょう。翻訳者の専門性が明確であることは、翻訳品質の担保に直結します。

まとめ

英文契約書の翻訳には、AI翻訳が便利な一方で、誤訳やセキュリティリスクといった課題が残されています。

質の高い翻訳を実現するためには、AI翻訳を下訳として活用し、専門家によってレビューする工程が不可欠です。また、翻訳会社を選定する際には、英米法などの深い専門知識や、情報セキュリティ対策、そして総合的なコストを評価することが重要となります。

この記事で解説したポイントを参考に、自社のビジネスリスクを回避するための適切な翻訳体制を構築してください。

英文契約書の翻訳に関するQ&A

質問1:英文契約書の翻訳費用はいくらですか?

翻訳費用は、依頼する会社や個人の専門性・翻訳の難易度・文書の分量・納期などによって大きく変動します。

一般的な目安として、翻訳会社に依頼する場合、日本語から英語への翻訳は1文字あたり10円〜15円程度、英語から日本語への翻訳は1単語あたり18円〜20円程度が相場です。弁護士事務所に依頼する場合は、A4用紙1枚あたり15,000円〜20,000円程度が目安となります。

質問2:英文契約書の翻訳に資格は必要ですか?

日本の法律上、英文契約書の翻訳業務を行うために必須の資格はありません。
そのため、翻訳スキルがあれば、特別な資格を持っていなくても、業務を行うことは可能です。

しかし、契約書翻訳は法律に関する専門知識が不可欠であり、誤訳が大きな法的リスクにつながるため、高度な専門性が求められます。

質問3:翻訳ツールで英文契約書を翻訳したらバレますか?

Google翻訳やDeepLなどのAI翻訳ツールは、近年目覚ましい進化を遂げており、簡易的な文書であれば精度の高い翻訳が可能です。

しかし、契約書のような専門的かつ法的リスクを伴う文書の翻訳には、AI翻訳ツールをそのまま利用することはおすすめしません。無料の翻訳ツールでは、文脈・文化的背景・法的ニュアンスを完全に理解することが難しく、不自然な表現や誤訳が生じるリスクがあります。

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