法務管理の効率化と課題解決!リスク対策の実践ガイド

法務管理は企業経営において不可欠な業務ですが、役割の重要性については見過ごされがちです。そもそも法務管理が対象とする業務にはどのようなものがあるのでしょうか。
この記事では、法務部門の役割から、契約書やコンプライアンス、知的財産に関するリスクとその対策などについて、詳しく解説していきます。業務効率化を実現するリーガルテックの活用方法もあわせてご紹介していきます。
法務管理とは
法務管理とは、企業が事業活動を行う上で生じる法的リスクを特定・評価し、最小化するための活動全般を指します。法務管理のなかでも近年、法令順守(コンプライアンス)は企業の社会的責任として不可欠となっており、法的リスクへの適切な対応は、企業価値の維持・向上に直結するとして重視されています。
法務管理が対象とする主な業務範囲は以下のとおりです。
- 契約管理
- コンプライアンス管理
- 知的財産管理
- 紛争・訴訟対応
企業における法務部門の役割と重要性
企業における法務部門は、「攻・守」にわたる重要な役割を担っています。
まず、「守りの法務」としての主な役割は、法的トラブルを未然に防ぎ、リスクを最小限に抑えることです。
例えば、契約書のチェックやコンプライアンス教育を通じて社員の法令順守意識を高めることで、訴訟や行政処分といった大きな損失を回避し、企業の安定的な経営基盤を築きます。
また、新しい事業を立ち上げる際、関連法規を事前に調査し、事業モデルが法的に問題ないか確認することも法務部門の役割です。
次に、「攻めの法務」として主な役割は、法務の専門知識を活かして企業の競争力を向上することです。
M&A(企業の合併・買収)・新規事業の立ち上げ・海外進出といった戦略的な経営判断において、法的な観点は欠かせません。最適なスキームを提案したり、市場での優位性を確立したりするのは、法務部門の重要な役割です。
具体的には、知財戦略を構築し、新しい技術を開発した際には法務部門が特許出願をサポートし、その技術が他社に模倣されないように先手を打つなどが考えられます。
法務管理が対象とする主な業務範囲
ここでは、法務部門が行う主要な業務分野について、具体的な内容と求められるスキルを解説します。
契約管理
契約管理は、法務管理の中核をなす業務です。
取引先との契約書・覚書・秘密保持契約(NDA)などの作成、レビュー、交渉、締結、そして締結後の保管や管理まで、契約のサイクル全体を管理します。
契約管理には、法律知識はもちろん、ビジネス上のリスクを的確に判断する力・交渉力・そして論理的思考力が不可欠です。
コンプライアンス管理
コンプライアンス管理は、企業が法令や社内規程を遵守するための体制を構築し、運用する業務です。
例えば、関連法令を調査して社内規程へ反映したり、コンプライアンス研修の企画・実施をしたり、内部通報窓口を設置したりといった業務があります。
コンプライアンス管理には、変化する法令をキャッチアップする継続的な学習意欲・社内への啓蒙活動を行うためのコミュニケーション能力・組織全体のガバナンス体制を構築する能力が求められます。
知的財産管理
知的財産管理は、特許・商標・著作権といった企業の知的財産を守り、活用するための業務です。
新技術やブランド名に関する特許や商標の出願、模倣品対策、他社とのライセンス契約交渉、自社の知的財産権侵害に対する法的措置などを行います。
知的財産管理には、知的財産法の専門知識・特許事務所や外部弁護士との連携能力、 自社の技術や事業を深く理解する力が求められます。
紛争・訴訟対応
紛争・訴訟対応は、顧客・取引先・従業員との間に発生した法的トラブルや訴訟に対応する業務です。
トラブル発生時の事実関係調査、外部弁護士との連携、訴訟資料の準備、裁判所への対応、和解交渉を行います。
紛争・訴訟対応には、問題解決能力・冷静な状況分析力・複雑な事案を整理して的確に外部専門家へ伝えるためのコミュニケーション能力が不可欠です。
法務リスクの種類と対策
法務リスクには、主に「契約関連リスク」「コンプライアンス違反リスク」「知的財産権リスク」の3つがあります。
それぞれについて、リスクと予防策をご紹介します。
契約関連リスクと予防策
契約書についての主なリスクとしては、条項が曖昧で双方の解釈にずれが生じ、将来的な紛争の原因となることがあるでしょう。とくに債務不履行や損害賠償に関する規定が不十分な場合、自社に大きな不利益をもたらすおそれがあります。
また、紙の契約書は紛失や破損のリスクがあり、必要なときに内容を確認できなくなる場合があります。契約内容に含まれる機密情報が外部に漏洩すれば、企業の信用を大きく損なうおそれもあるため管理の徹底が必要です。
さらに、定期的な更新が必要な契約の期限を失念すると、契約が自動更新されたり、意図せず失効したりするリスクがあり、取引機会の損失やサービスの停止に繋がるおそれがあります。
このような契約関連のリスクを回避するためには、厳格な契約書レビューと正確な管理が不可欠です。
契約書は、曖昧な表現を排除し、取引条件・義務・権利関係を明確に定義することが重要です。
また、管理においては契約書を電子データ化して紛失のリスクをなくし、検索性を高めましょう。そして、アクセス権限を細かく設定することで、情報漏洩のリスクを低減することが大切です。
さらに、リーガルテックツールを導入すれば、契約の締結日や更新日を自動で通知する仕組みを構築でき、更新漏れを効果的に防ぐことが可能です。これにより、契約ライフサイクル全体を可視化することでリスクを最小限に抑えることができるでしょう。
コンプライアンス違反がもたらす影響
法令・社内規程・社会規範の違反は、企業に多大な損害をもたらしかねません。
法令に違反した場合、業務停止命令・課徴金・罰金といった行政処分や刑事罰が科される可能性があります。これにより、事業継続が困難になったり、企業の経済的基盤が揺らいだりするおそれがあります。
また、メディアやSNSを通じて拡散されてしまえば、企業の評判を著しく損ないかねません。消費者や取引先からの信用を失い、ブランド価値が低下することで、売上の減少や優秀な人材の流出を招くおそれがあります。
さらに、労働基準法違反や不当解雇など、従業員との間に法的な問題が生じれば、訴訟に発展し、多大な労力と費用を費やすことになります。
このようなコンプライアンス違反を未然に防ぐためには、まず企業が遵守すべき行動指針を明確にして組織的な体制を構築し、全従業員にコンプライアンスへの意識や知識を浸透させることが重要です。
また、組織内の不正を早期に発見できるよう、従業員が安心して通報できる内部通報窓口を設置しましょう。
さらに、コンプライアンスリスクを専門に管理する部署や責任者を置き、組織横断的にリスクを監視・評価できる組織体制を構築するのも有効です。
知的財産権にかかわる法的問題
知的財産権(特許権・商標権・著作権など)は、企業の独自性や競争力を守る重要な盾です。しかし、他社の知的財産権を侵害してしまった場合、差止請求や損害賠償請求を受ける可能性があります。これにより、製品の製造・販売停止や巨額の金銭的負担が生じます。
また、自社が取得した権利に無効理由がある場合、他社からの無効審判請求によって権利が消滅するケースもあります。独占的な事業展開が不可能になるため、慎重な申請が必要です。
知的財産権の侵害を回避するためには、新規事業や製品開発を行う前に、類似の知的財産権が存在しないか、徹底的な調査が不可欠です。特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)などを活用して、権利侵害のリスクを事前に回避しましょう。
また、知的財産権に関する問題が発生した場合、専門的な知識が求められるため、速やかに弁護士や弁理士などの専門家に相談することが重要です。
法務業務を効率化する実践テクニック
法務業務は、契約書の作成・レビューや訴訟対応、コンプライアンス管理など多岐にわたります。このような業務を効率化するには、タスクの自動化、一元管理、そして情報の共有という方法論が鍵となります。
定型的な作業を自動化することで、担当者はより戦略的な業務に集中でき、企業の成長に貢献できます。さらに、契約書や規程をデジタル化して一元管理することで、検索や情報共有が容易になり、業務品質の向上とヒューマンエラーの削減にも繋がるでしょう。
リーガルテックツールの活用メリット
「リーガルテック」とは、ITやAI技術を用いて法務業務を効率化するサービスやツールの総称です。リーガルテックの導入によって、法務部門は従来の業務プロセスを大きく変えることができます。
「AI契約書レビュー」を導入すれば、契約書の内容を自動で解析し、法的なリスク・不備・不利な条項などをAIが指摘してくれます。自社のひな形との差分比較や、過去の契約書との文言比較も可能です。従来、弁護士や法務担当者が手作業で行っていたレビュー作業を大幅に効率化し、レビュー時間の短縮とミスの削減により迅速な契約締結が実現します。
次に、「ケース管理システム」を導入すれば、法務部門に寄せられる相談案件や訴訟案件を一元管理し、進捗状況や担当者を可視化できます。案件の進捗状況がチーム全体で共有されるため、属人化を防ぎ、対応の遅延防止が可能です。
リーガルテックツールにはさまざまな種類があるため、自社のニーズに合うものを選定することが重要となります。
ツール選定時の評価ポイントは以下のとおりです。
- どのような課題を解決するために、どのような機能を求めているのかを明確にする
- 各ツールの機能や特徴(対応言語、ほかのシステムとの連携性、紙媒体の管理可否など)を比較検討する
- 導入や運用にかかるコストと、期待できる業務効率化のメリットを比較する
- 導入後のサポート体制(専門家による相談窓口の有無など)が充実しているか確認する
- 実際に利用している企業のカスタマーレビューや評価を確認し、使い勝手や導入効果を把握する
契約書管理のポイント
適切な契約書管理の体制構築によって、法的なトラブルを未然に防ぎ、ビジネス上のリスクを最小限に抑えることができます。また、契約締結までのリードタイム短縮や、契約更新漏れの予防も可能です。
契約内容の適切な履行を確保することは、取引先との信頼関係を維持・強化に繋がります。
電子契約導入で実現する業務改革
電子契約システム導入で、契約書の作成・レビュー・承認・締結といった一連の流れをシステム上で管理できるため、手作業による印刷・製本・郵送の手間がなくなります。
また、紙の契約書が不要になるため、印刷代・郵送費・保管スペースにかかるコストを削減でき、担当者がリモートワークであっても契約業務に対応可能です。
さらに、契約書が電子データとして一元管理されるため、紛失のリスクがなくなり、検索機能を使えば、必要な契約書をすぐに見つけ出せ、管理工数も削減できるでしょう。
電子契約書であっても、正しく使用すれば法的な有効性が確立されています。電子署名法でも、適切に電子署名がなされた電子文書は、押印のある紙の契約書と同じ効力があるとされています。
電子契約の法的な有効性を保つためには、以下のポイントに注意が必要です。
- 電子署名
紙の契約書における署名や押印の代わりとなるもので、その電子文書が「本人の意思で作成されたこと」と「改ざんされていないこと」を証明します。電子署名法の要件を満たせば、法的に真正に成立した文書だと推定されます。 - タイムスタンプ
契約書が特定の時刻に存在し、それ以降に改ざんされていないことを証明するものです。契約の非改ざん性を確保し、証拠としての信頼性を高めます。
契約更新漏れを防止する仕組み
契約更新漏れは、取引機会の損失や法的トラブルに発展する可能性があります。契約管理台帳をExcelなどで手動で管理していると、担当者の異動や人為的ミスで更新期限を見落とすリスクが高まります。
契約更新漏れを防ぐには、リーガルテックツールの導入が最も効果的です。
多くの契約管理システムは、契約書の情報をAIが自動で読み取り、契約開始日・終了日・自動更新の有無などをシステム内に登録します。手入力することなく、膨大な契約書の情報を一元的に管理することが可能です。
システムに契約情報を登録した後は、アラート機能を活用して更新漏れを確実に防ぎます。契約終了日の2カ月前、1カ月前など、複数のタイミングで通知されるようにアラート設定しておくと安心です。担当者だけでなく、関係部署の責任者にも自動でメール通知されるように設定するとより確実です。
まとめ
企業が持続的に成長するためには、法務管理体制の強化が不可欠です。
法務管理にリーガルテックを導入すれば、法務業務の効率化と品質向上を同時に実現することができます。
AIによる契約書レビューや電子契約システムによって、人的ミスを最小限まで減らし、業務スピードを向上させることが可能となり、確実に法務管理体制の強化に繋がるでしょう。
よくある質問
法務管理とは何?
法務管理とは、企業が事業活動を行う上で直面する法的リスクを特定し、最小化するための活動全般を指します。
具体的には、契約書の作成やレビュー・コンプライアンス体制の構築・知的財産権の管理・訴訟対応など、多岐にわたる業務を包括的に管理することです。
これは単に法律を守るだけでなく、企業価値を向上させる面でも重要な役割を担います。
法務職に向いている人の特徴は?
法務職には、論理的思考力と高い専門性に加え、コミュニケーション能力が不可欠です。
複雑な法律や契約内容を正確に読み解く力、そして法的観点から最適な解決策を導き出す論理的思考が求められます。
また、経営層や各事業部の担当者と円滑に連携し、専門的な内容をわかりやすく説明するコミュニケーション能力も重要です。

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