契約書の印鑑選び完全ガイド!種類と押印位置の基本ルール

LAWGUE編集部
契約書の印鑑選び完全ガイド!種類と押印位置の基本ルール
資料請求ダウンロード

契約書における印鑑は、自分自身の意思で契約を交わしたことを示すために用いるものです。ビジネスシーンでは日常的に契約書が取り交わされ、私生活上も重要な取引の際は契約書が用いられることが慣習となっています。では、契約書への押印は、なんのためにおこなっているのでしょうか。また、どのような場合にどのような印鑑を用いるのが適切なのでしょうか。

この記事では契約書に押印することの意味、契約に使う印鑑の種類や押し方、押印に代わる契約の締結方法についてご紹介します。

契約書に押印は必要なのか?

契約書は、当事者間で契約を締結するために作成し、取り交わす文書です。
ビジネスシーンにおいて、契約書を取り交わす際は押印をすることが通常ですが、そもそも押印は必ずしなければならないのでしょうか。

契約書は、文字どおり、契約をするための文書であり、契約をしたことを証する文書です。まずは、契約が成立するための要件を見てみましょう。契約の成立要件は、民法に定められています。


(契約の成立と方式)
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。


この民法の規定によれば、契約申し込みの意思表示と相手方の承諾の意思表示があれば、法令に特別の定めがある場合を除き、そもそも書面を作成する必要がありません。
そのため、契約は、口頭でも、メールによっても、注文書のような契約書以外の文書によっても成立させることができるのです。

印鑑で得られる法的保護とは?

それでは、契約書への押印は無意味な慣習なのかといえば、そうではありません。
通常、個人にしても企業にしても、印鑑は厳重に管理しており、印鑑の所有者(企業の場合押印する権限を持つ者)の意思に基づかずに使用されません。

そのため、契約書に押印されているということは、通常は本人が押したと考えられます。
このことから、契約書への押印には法律上一定の効果が与えられており、契約の成立をめぐるトラブルの防止に役立っています。

「二段の推定」で守られる契約内容

企業においても、個人においても、経験則上、本人の印鑑を他人が勝手に使用することは通常ありません。
そのため、民事訴訟において、契約書(文書)に押印がされているときは、通常、その印影の本人が押印したと推定されるというのが、判例の確立した考え方です。本人による押印を否定するか真偽不明する立証活動をしなければ、本人が押印したと認められます。これを一段目の推定といいます。

そして、人が文書に押印するときは、その文書全体についても本人の意思に基づいて作成されているのが通常です。この経験則から、法律上、本人の押印または署名のある文書は、真正に成立した、すなわち、「本人の意思に基づいて作成されたと推定する」と定められています(民事訴訟法 228 条 4 項)。これを二段目の推定といいます。


(文書の成立)
第二百二十八条
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。


これら2つの推定により、文書に本人の印鑑の印影がある場合は、その文書は本人の意思に基づいて作成されたと推定されます。これを二段の推定といいます。
二段の推定により、当事者双方が押印をした契約書は、当事者双方が本人の意思に基づいて作成されたと立証することが容易になり、トラブルの防止に役立つのです。

「推定」というのは、そうではないと考えられる証拠がある場合は、覆ることがあるため注意が必要です。例えば、従業員が代表取締役の印鑑を勝手に持ち出して契約書に押印した疑いがある場合は、一段目の推定が覆ります。権限のある本人が押印したとしても、押印後に文書が書き換えられた疑いがある場合は、二段目の推定は覆る可能性があるのです。

押印なしでも契約は成立する?—よくある誤解

上記のとおり、原則として契約の成立には特定の様式は必要ありません。そのため、契約書への押印がなくとも、契約は成立します。
しかし、上記のように当事者双方が押印した契約書に押印することで、契約の成立の確実性が高まります。

むしろ、契約書に押印がされていないこと自体、契約が成立していない(契約内容について当事者が合意していない)ことを推認させる事実と評価されてしまう可能性があります。

なぜなら、契約書により取引をおこなう場合、企業の取引慣行として、当事者間の交渉を経て契約内容・契約条件が固まった後、当事者双方が押印することが慣行となっているからです。
したがって、契約書により契約を締結する際は、押印(または後述のとおり署名または電子署名)をおこなうことが事実上必須といえるでしょう。

トラブル防止に役立つ押印の意義

契約書に取引当事者が双方押印しておくことで、法的観点から、契約の成否の立証が容易になります。

また、企業においては、社内での検討や決裁手続を経なければそもそも押印できないこととなっているのが通常です。そのため、相手方に契約書への押印を求めることは、必然的に、契約内容についても慎重な検討や確認を促すことになります。
実際、後々のトラブルになるリスクを低減させる意義があるといえます。

契約書で使われる印鑑の種類

ビジネスで使う印鑑には、「実印」「認印」「銀行印」「社印・角印」などさまざまな種類や呼称があります。利用するシーンによって印鑑を使い分けることが必要です。それぞれどのようなものか、見ていきましょう。

実印の役割と登録方法

「実印」とは、印鑑登録されている印鑑のことで、公的に認められた印鑑と位置付けられます。個人・法人のいずれも印鑑登録をすることができます。
なお、法人の場合、従前は設立時に印鑑を届け出ることが義務付けられていましたが(商業登記法第20条)、商業登記法の改正により現在は任意とされています。

その信頼性の高さゆえに、不動産取引や金銭消費貸借取引など、高額の金銭が関係する契約では、実印による押印を求められることがあります。

会社が印鑑登録する場合は、代表者印を登録します。
三文判も実印として登録することは可能ですが、三文判は同じ印影の印鑑を用意に入手できるため、重要な取引に用いる実印としては不向きです。
可読性よりも偽造防止が重要であるため、可読性の低い吉相体や篆書体などの字体を用いるのがよいでしょう。

認印はどんな契約に使える?

「認印」とは、印鑑登録されていない印鑑を意味します。認印として用いられる印鑑としては、次に説明する角印や、印鑑登録した代表者印とは別の代表者印があります。
日常的な取引に用いられる、見積書、注文書、契約書、請求書などの書類には認印を用いるケースが多く見られます。

インクが内蔵されたスタンプタイプのゴム印(いわゆるシャチハタ)は、使用しているうちに摩耗、変形しやすい特徴があります。そのため、書類の回覧印や郵送物の受取印などに使用するにとどめ、認印として取引に関する書類に用いるのは控えたほうがよいでしょう。

法人契約で使う社印・角印の違い

「社印」とは、社名のみ彫られた印鑑を指し、通常は印影が四角形なので、角印とも呼ばれます。認印として、見積書や請求書などの日常的な取引に関する書面に用いるのに適しています。
他方で、代表者名義ではないため、代表者名義で押印することが求められる契約書などの文書には使用しません。

代表者印が必要なケースとその重要性

代表者印は、法人名と「代表取締役」などの代表者を示す文言が印字される印鑑のことです。
代表者印は、文字通り代表者が押印することを示すもので、一般的に重要な契約を締結する際に代表社印が用いられます。
また、会社の実印として登録する印鑑は代表者印である必要があります。

契約書に最適な印鑑の選び方

契約書に押印する印鑑には、適した種類と使い分けがあります。印鑑の違いを理解せずに使うと、契約の効力や信頼性に影響を及ぼすため、次のような点を踏まえて、適切な印鑑選びでトラブルを未然に防ぎましょう。

  • 取引類型
  • 取引金額
  • 文書の体裁

取引金額で変わる!適切な印鑑の選択基準

不動産取引や金銭消費貸借取引などの高額取引に係る契約書については、本人による押印であることを確実にする必要性が高いため実印が適しています。
他方で、日常的におこなう取引や少額の取引の契約書については、実印ではない代表社印を用いることが一般的です。

見積書や請求書など、必ずしも代表者の権限で作成する必要のない文書については、社印(角印)を用いる場面がよくみられます。

個人事業主が押すべき印鑑の種類

重要な取引については、法人の場合と同様、印鑑登録した実印を用いるのが適切です。
屋号のある個人事業主の場合、屋号が彫られた屋号印を用いることもあります。

個人事業主の場合、屋号があっても、契約当事者となるのはあくまでも個人事業主本人です。そのため、契約書に押印するのは屋号印ではなく、個人名の印鑑が適している場合が多いといえます。

押印の際の位置と方法の正しいルール

通常、次のように、契約書の当事者欄の署名(記名)の横に押印します。


甲 東京都千代田区●●1-1-1
株式会社甲野物産
代表取締役社長 甲野 太郎 ㊞


実印を押印する場合は、印鑑と印鑑登録証明書の印影との一致を確認する必要があるケースが多いため、文字にかからないように押印します。
認印以外を押印する場合は、偽造の防止のため、文字に少しだけかかる位置に押印することもあります。印影が文字にかかっていると、悪意ある人物が印影だけをコピーして別の文書に貼り付けることが難しくなるためです。

印影が綺麗に残るコツと注意点

印鑑を朱肉につける際は印鑑に均一にインクがつくように意識します。
力が均等に伝わるよう、押印箇所の下に捺印マットを敷きましょう。
押印する際は、印鑑の上下を確認してください。印鑑によっては上部を示す印がついているものもあります。

印鑑を書面に押したら、真上から円を書くように全体的に力を入れます。
押印したあとは、インクが乾く前に擦ってしまわないよう注意しましょう。

押印が不要になる契約書のケース

契約を確実に成立させるため、契約書への押印は事実上必要なものとしておこなわれていますが、次の場合は押印不要です。

  • 電子署名を用いる場合
  • 権限のある者が契約書にサインをする場合

法改正で変わった!押印省略可能な契約書

電子署名により契約を締結する場合は、紙の契約書に印鑑を押すという物理的な意味での押印は不要です。

デジタル社会の推進を目的として2021年5月12日に可決された、デジタル改革関連法により、押印義務や書面化義務が廃止または緩和されました。
これにより、企業が締結する契約の大半は、電子署名によって締結できるようになっています。

もっとも、下記の契約については、法律上、公正証書によらなければならないと定められ、電子契約では締結できないため、注意が必要です。

  • 事業用定期借地権等設定契約(借地借家法第23条第3項)
  • 企業担保権の設定又は変更を目的とする契約(企業担保法第3条)
  • 任意後見契約(任意後見契約に関する法律第3条)

サインだけで有効な契約とは?

契約書により契約を締結する場合は、事実上、押印が必要ですが、代表取締役などの契約を締結する権限のある者がサイン(署名)する場合は、印鑑は不要です。
前述の二段(目)の推定についても、民事訴訟法第228条第4項は、署名の場合と押印の場合とで同様の取扱いとしています。

そのため、署名の場合も、本人によるものであることが確認されれば、本人による押印の場合と同様、文書の成立の真正についての二段目の推定が働きます(民事訴訟法228条4項)。

電子契約への移行で考慮すべきポイント

法的観点からは、電子契約の場合、上記の押印の場合の推定規定(民事訴訟法第228条第4項)が適用されない点に注意を要します。
電子署名及び認証業務に関する法律(以下「電子署名法」といいます。)上、一定の要件を満たした電子署名については、契約書(厳密には契約書のデータ)の成立の真正が推定されると定められています(電子署名法第2条、第3条)。


(定義)
第二条 この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。

第三条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。


他方で、電子署名法上の電子署名の要件を満たさないデジタル署名については、文書の成立の真正が推定されません。そのため、署名をした者がその意思に基づいてその契約書(契約書のデータ)を作成したことを立証する必要があります。
つまり、証拠としての確実性が通常の印鑑による押印の場合よりも劣る点に、注意が必要です。

また、実務的観点からは、まず、電子契約への移行に伴い、社内決裁のワークフローが変わるため、社内の関係部門間での調整が必要になります。試験的に一部の契約類型についてのみ先行して導入することも、よくおこなわれています。
電子署名により契約を締結するには、当事者双方が電子署名をする必要があるため、取引先との間で電子署名によることについて承諾を得る必要もあります。

さらに、電子契約を導入する場合、紙面に押印する場面を想定した既存の社内ルールでは対応できません。そのため、電子契約を導入する場合は、電子署名をおこなう際の権限や手続、遵守事項などについての社内ルールや、電子署名により締結した契約書の保管についての社内ルールを新たに設ける必要があります。

まとめ

契約書への押印は法律上の義務ではないものの、押印により契約書による契約の成立の確実性が高まります。その反面、押印していないこと自体が、契約が成立していないことを窺わせる事情の一つとなりえます。そのため、署名や電子署名をおこなう場合を除き、トラブルの防止の観点からは契約書への押印は事実上必須といってよいでしょう。

また、契約書などの文書への押印に用いる印鑑(印章)にはいくつかの種類があるため、本記事を参考に、シーンに応じた適切な印鑑を用いるようにしましょう。

よくある質問

契約書にハンコは必須ですか

ハンコ(押印)により、その契約書が真正に成立したことが推定され、訴訟において契約の成立および内容を主張することがより確実になります。その反面、押印していないと、契約が成立していないと判断されやすくなります。
したがって、契約書により契約を締結する場合は、押印は事実上必須といえるでしょう。
ただし、ハンコ(押印)に代えて、契約締結権限のある者の署名または電子署名により契約を締結することでも足ります。

契約書にシャチハタで印鑑を押しても問題ないですか

シャチハタは同一の印影のものが安価で入手できる上、使用しているうちに摩耗して押印時の印影と一致しなくなってしまうことがあります。そのため、契約書に用いるのは避けたほうがよいでしょう。

LAWGUE編集部のプロフィール画像
LAWGUE編集部

AIで契約書・規程業務を効率化するツール「LAWGUE(ローグ)」を提供し、法務実務とリーガルテックに精通したエキスパートによる、お役立ち情報を発信しています。

トップへ戻る

お気軽にお問い合わせ・ご相談ください