契約書はスキャンして保存できる?スキャナ保存のやり方と注意点を解説

契約書を紙で作った際、スキャンして保存する企業が増えています。
しかし、
- スキャンした後の紙の契約書はどうしたらよいのだろう?
- そもそもスキャンしてよいの?ステープルを外してよい?
- 電子帳簿保存法ってよく聞くけど対応しているの?
などなど、日常的に疑問に思う方も多いでしょう。
今回は、契約書のスキャンを法的に整理した上で、電帳法についても解説します。
契約書はスキャンして保存できる?
契約書をスキャンして保存できるかどうかを考える前に、契約における契約書の役割を知る必要があります。民法522条は、以下のように定められています。
522条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(中略)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、(中略)書面の作成そのほかの方式を具備することを要しない。
このように、契約は意思の合致により成立し、書面の作成などは原則として必要ありません。つまり、契約書がなくても契約は成立するのです。また、書面を作成するにしても方式は問われませんので、スキャンして保存して構わないということになります。
契約書が活きてくるのは契約の有無や内容、効力が争われたときです。契約の相手方が争ってきた際、契約書の原本があれば証明力は強くなります(民訴規則143条1項参照)。
要するに、契約書の証明力が落ちるものの、スキャンして保存すること自体は構わないということです。
契約書をスキャナ保存する要件とは?
以上が契約当事者間での法的効力のお話でしたが、国との関係、つまり税金との関係では、保存のやり方が決まっています。
電子帳簿保存法(以下、電帳法)における重要書類(令和6年1月以降)の保存要件をまとめると、以下のようになります。
契約書をスキャナ保存するメリット3つ
電帳法との関係では保存要件が細かいため、スキャナ保存をするハードルは低くありません。それでもスキャナ保存は徐々に普及しています。それには、次のようなメリットがあるからでしょう。
①書類の管理コスト削減
②検索機能の強化
③ガバナンスやコンプライアンス強化
以下、それぞれ説明していきます。
①書類の管理がしやすくコストが削減できる
まずは物理的なコストです。
紙の契約書の場合、保管する場所が必要です。温度や湿度まで気を配る必要があります。
自社で保管が難しければ、倉庫業者を利用することになり、費用がかかります。また、自然災害があったときに滅失のおそれもあります。
一方で、データになっていれば、保管場所は不要です。また、管理の方法によっては、滅失のおそれも減ります。
電子データ管理のランニングコストとの兼ね合いにはなりますが、膨大な契約書を扱う企業であれば、管理コストの軽減につながります。
②閲覧したい契約書が探しやすくなる
スキャナ保存の最大のメリットは、検索機能でしょう。
紙であれば、そもそもどこに保管されているかから始まり、契約書が見つかったら見たい条項を探していくという手間があります。ベテランの法務部が必要になることもあり、これまではどうしても属人的な作業になっていました。
電帳法上のスキャナ保存であれば、検索機能が付いており、契約書へのアクセスは容易です。契約書の全文検索もできれば、条項へのアクセスも容易になります。
③ガバナンス強化
管理がしやすくなるということは、契約書にアクセスした者・日時を管理しやすくなることも意味します。
契約書へのアクセス権限を持っている者を限定し、ログを管理することで、紛失・改ざんのおそれが減り、仮に何か起きたときの原因も解明しやすくなります。
不正が減ることでコンプライアンスの強化や社会的信用を高めることにもつながるのです。
契約書をスキャナ保存する際の注意点
メリットが多いスキャナ保存ですが、注意点もあります。
主に以下の3点です。
①スキャナ保存の際の時間的人的コストの問題
②法的効力の問題
③機能(コスト)の問題
それぞれ説明していきます。
スキャナ保存の作業に時間・手間がかかる
まずはスキャナ保存段階でのコストの問題です。
契約書には付箋や印紙が貼られていたり、複数枚であればステープルで止まっていたりします。付箋は外しても構いません。しかし、印紙は剥がしてはならずステープルを外すのも適切ではありません。そのため、安易にソートは使えず、正確にスキャンするのに時間がかかります。
担当する従業員の人的コストもかかります。スキャン代行への依頼も検討すべきでしょう。
法的効力が弱まる
先ほど述べたとおり、契約の有無や内容を証明するには、契約書の原本が重要です。他方で紙をPDF化したものには原本性がなく、証明力が落ちます。
裁判官は、紙が原本であれば、手触りや色、汚損状況まで確認して判断します。また、原本がないのであれば「なぜ原本がないのか」という点からも判断しようとします。
電子契約でないならば、スキャンした後も紙を保存しておくことが重要です。
検索性を高めるためにOCRが必要になる
スキャンデータにタグを付けておけば、契約書の特定までは検索が容易になります。他方で、その契約書の中の条項を検索したい、あるいは複数の契約書を横断的に検索したい場合には、本文を検索できるようにしなければなりません。
そのためには、OCRが必要になります。OCRとは、簡単にいえばスキャンした画像データを文字データとして認識できるようにすることです。
契約書の電子化の大きなメリットは横断検索ですから、ぜひOCRを入れておくのをおすすめします。
まとめ
今回は契約書のスキャンについて解説しました。要点は以下のとおりです。
①契約書はスキャンしてよい。ただ、証明力が落ちるのと電帳法の要件には注意。
②スキャンするとメリットが多い。特に保管・検索場面で力を発揮する。
③他方でスキャンには注意点もある。証明力のほか、威力を発揮するにはOCRが重要。電子契約でないなら紙は捨てないで。
最後に、よくある質問を簡単にまとめておきます。
よくある質問
契約書のスキャンデータは有効ですか?
有効・無効というのは多義的ですが、少なくとも契約書をスキャンしたからといって契約が無効になるわけではありません。
ただ、証明力は落ちますので、電子契約でなければ、紙の原本も残しておくべきです。
また、税金との関係では電帳法上の要件を満たしておく必要があります。契約書は重要書類に当たりますので、細かい要件が課されています。きちんと満たしているか今一度チェックしましょう。
契約書をスキャンするコツは?
スキャンは省スペースのためでもありますが、やはり検索機能を強化したいからが一番要望として強いでしょう。
そこで、検索する場合を考えてスキャンすると良いでしょう。タイトルを付ける際に、ほかの契約書と区別して検索できるか、逆に同種の契約書はまとめて検索できるかなど、検索することから逆算してスキャンしていくことが重要です。
また、スキャンの対象が重要な契約書ですので、担当者・責任者を決めておくと間違いが少なくなります。

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